Abyss-Diver#0 "the Break Time"



side.03【Brother】


「いいお店ね。ホント、ここにして正解だったわ♪」

小奇麗な店のテーブル席に、何やら上機嫌なリズニアと仏頂面したカイゼルが腰掛けていた。

「正直、こんな事に付き合っている暇はない」

「でも付き合ってくれたじゃない」

「……暇潰しだ」

「えっ?暇がないんじゃなかったの?」

「…………」

カイゼルは顔をしかめた。

さっきからずっとこんな調子だ。

言いたい事も、気の利いた言葉も浮かんで来ない。

そうでなくても、もともと口下手な彼は、結局リズニアにやり込められてしまっていた。

思えば、Xenoの情報を噂程度でも集めようと繁華街に入ったのが間違いだった。

カイゼルは、耳に入って来るダイバー達の会話の端々を拾いながら、通りをうろついていた。

人の集まる場所では、誰と鉢合うか分からない。

各地のアビスを放浪して来た彼にとって、それは常識だった。

しかし、その『常識』が手繰り寄せた人物は

「カイゼル……?カイゼルじゃない!」

他ならぬリズニアだった。

彼女は小柄な身で、人ごみを懸命に掻き分けて寄って来た。

置いていく気にもなれず、カイゼルは挨拶程度で済ませるつもりで応じてやった。

が、読みが甘かった。

「ちょうど、表通りに素敵なお店があったの。ね、行きましょう♪」

他の人間なら無視するか追い払うかしてしまう所だが、リズニアに対してだけはそれが出来ない。

結果、引っ張って来られたのがこの店だった。

「それより、さっきからちっとも進んでないじゃない?」

カイゼルの前には、小洒落た皿に盛られたパスタ料理。

リズニアに連れて来られた彼は、仕方なくコーヒー一つで済ませようとした。

が、ここでも読みが甘かった。

「あっ!季節の野菜パスタですって。おいしそう♪ね、これにしましょう!」

あれよこれよという間に、二人分の料理が勝手に注文されてしまったのだ。

「早く食べないと冷めちゃうわよ?」

顔を覗き込んでくるリズニアに観念して、カイゼルはフォークをとった。

器用に、麺と絡まった野菜を口に運ぶ。

「どう?」

「……悪くはない」

リズニアの顔が、ぱぁと明るくなる。

「じゃ、美味しいって事ね。よかった!」

そう言うと、リズニアは満足気にまた自分の分を食べ始めた。

テレパシーなど使わなくても、リズニアは全てお見通しのようだ。

しかし、カイゼルは「それはそれで、悪い気はしない」と思っていた。

(この世にひとつくらい『敵わないもの』があっても一興かもしれない。『最強』と畏怖される俺らしくはないが……)

ふと視線を向かいに座るリズニアに戻す。

彼女は相変わらず、うれしそうにパスタを頬張っている――はずだった。

が、実際のリズニアはフォークを置いて、ニコニコとカイゼルを見つめている。

(思考を読まれた……!?)

カイゼルは何とも言えない居心地悪さを水を飲む動作で誤魔化した。

やがて

「おいしかった♪……じゃ、私もう行くわ。今日は付き合ってくれて、ありがとう」

ウキウキした様子で、リズニアは席を立って行った。

一人テーブルに取り残されたカイゼルは、料理の残りを平らげる事なく、代金だけを置いてさっさと店を出た。

勿論、リズニアの姿が見えなくなるのを確認してから。

(俺としたことが……!!)

もう二度と心理ブロックを解くものか、と彼は胸中で自分に釘を刺した。




<End>

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