架空問答 実家篇《延長戦》

《延長戦》世の中興奮することは一杯あるが、やはり一番興奮するのは実家の話題で間違いない

藤堂「酷いです!皆さんで、のんびり・まったり・源さんのお茶付きで会合していたなんて!」 山南「藤堂君。そんなに怒らなくても…」 藤堂「原田さんだって呼ばれたのに!私だけ除け者にするなんて、山南さんも人が悪いです!」 山南「いや。君の出自はあくまで『自称』だから、今回の趣旨には合わなかったと云うだけだ。他意はないよ」 藤堂「(ニヤリ)知ってますよ?そういう山南さんこそ、伊達家の家臣団の記録に家名が見当たらないそうじゃないですか?」 山南「(ニコリ)さて?何の事かな?単なる調査不足ではないだろうか?」 永倉「山南さん。湯呑みは源さんに返して来——っと、平助?何だ。まだ呼ばれなかった事で臍を曲げているのか?」 藤堂「(ピン!)…まぁ、いいです。話しは変わりますが、藤堂家にはあの将軍家剣術指南役・柳生家出身の家臣が多いんですよ。伊勢国と大和国は近いですから」 山南「(察し)おや?奇遇ですね。私が学んだ小野派一刀流宗家・御子神典膳こと小野忠明は、柳生新陰流宗家・柳生宗矩と並ぶ江戸二大流派の一角を築いた剣客でね。いやはや。そんな天下の柳生に縁の者が新選組にいたとは、本当に驚きでした。…ねぇ?藤堂君」 藤堂「はい。本当に驚きましたよねぇ。道理で腕が立つ訳です。あの剣術ヲタク振りも、血は争えないとすれば納得するしかありません。…ですよね?永倉さん?」 永倉「(ギク!)いや。その話しは…遠慮させてくれ。と云うか、"ヲタク"って言うな」 藤堂「聞くところによると、お母上は柳生家の御家老の娘さんだそうじゃないですか?」 山南「しかも旧姓が『柳生』と云う事は、柳生家の一門(※本家の血縁)と考えるのが自然でしょう」 永倉「話したくない…」 山南「そういえば、柳生家は松前家とも姻戚関係にありましたね。確か、貴方の(ひい)祖父(じい)様も御主君・松前家の一門・蠣崎家の縁者に当たるそうではないですか」 永倉「黙秘する…」 藤堂「何をそんなに隠したがっているんです?いっそ、自慢にしてしまえばいいんですよ。私のように(ドヤァ) 山南「だから、藤堂君の場合はあくまでも『自称』だよ?」 永倉「隠すも何も…遡れば一門の縁者に当たると云うだけで、所詮は遠縁だ。ひけらかせるほどの家柄ではない。それだけだ」 藤堂「えぇ?天下の柳生家一門と、二万石の大名家一門の親戚だなんて、相当だと思いますけどね?私といい勝負ですよ?」 山南「だから、藤堂君は『自称』だよ?」 藤堂「(ニヤリ)山南さん?しつこいんですけど?」 山南「(ニコリ)えぇ。藤堂君もね」 永倉「兎に角、絶対に誰にも言わないでくれ。…特に、近藤さんと左之助には」 藤堂「あ…。確かに。近藤さんは、家柄や血筋を結構気にしますよね。言葉には出しませんけど」 山南「ご自身は、天然理心流四代目宗家。奥方は、御三卿・清水家家臣である松井家から迎えられている。武士として何ら申し分ないのだが…。まぁ、上を見ればキリがないと云う事でしょう」 藤堂「でも、何で原田さんにまで?むしろ、面白がって『あの柳生の親戚!?道理で強ぇと思ったわ!』とでも言いそうじゃないですか?」 永倉「俺は、皆とは剣友であり同志でありたいと思っている。家柄やら身分やら、己では選べぬものを差し挟みたくない」 山南「…そうでしたね。私とした事が、一番大事な事を忘れていたようです」 藤堂「…ですね。そうやって、新選組(私たち)は始まったんですから」 山南「では、この過去帳にある『柳生運平』なる方は、母方の伯父御でしょうか?それとも、従兄弟殿ですか?」 永倉「ですから…!皆まで言わせんで下さい!」 藤堂「あぁ、もう!山南さん。そろそろ、土方さんたち帰って来ますから。聞かれたら絶対面倒な展開になりますから。その話は終了で!」 ※資料にあった本人直筆の過去帳を見て驚いた件。新陰流は尾張柳生家に移っていたとは云え心底驚いた件。 土方「ちっ。折角武士に生まれた癖に脱藩しといて、挙句にいらねぇ気遣いかよ。“農民生まれ(俺と近藤さん)”の気も知らねぇで…」 沖田「はーい。土方さーん?僻まない、僻まなーい」 土方「あ?誰が…っ!?」 沖田「永倉さんの言う通りですよー。私たちは、技を高め合う剣友で、命を預け合う同志。生まれなんて、今更どうでもいいじゃないですかー」 土方「…そんな事ぁ、わかってんだよ。当然、近藤さんの耳に入れるつもりもねぇ」 沖田「ふふっ…。なら、いいでーす。…只今戻りましたー!皆さんにお土産買って来ましたよー!」