第七幕

新月の(とばり)越しにも、その端正な出で立ちは窺い知る事が出来た。
「あんたは…!?」 そこには、栄治たちがいつか追撃して逃がした、一人の若武者が立ち塞がっていた。
「『藤堂平助』…!?」 彼を話しには聞いていた知信が、初めて見定める亡霊の名を呟いた。
藤堂は鯉口を切ったまま沈黙し、突き刺さるような鋭い視線を向けている。
その厳しい眼差しに射抜かれ、四人は動く事を忘れた。
そこに大きな隙があった。
四人が気付いた時には、藤堂はもう動き出していた。抜刀しながら、みるみるうちに間合いを詰めて来る。
栄治も忠一も彩も知信も、先程の戦闘の疲労で、動きがひどく鈍っている。
誰一人として反応出来ないうちに、藤堂が突き出した切っ先が、先頭を歩いていた彩を捉えた。
「Oh...!」 彩の顔が、さっと強張る。
「…っ!月島さんっ!」 そのすぐ後ろに立っていた知信が、叫んで駆け寄ろうとした。
が、藤堂はあろう事か彩を追い越し、知信の脇をすり抜け、忠一の目の前に迫った。
「って、おぅわっ!?」 驚いている間に、藤堂の肘鉄が忠一の鳩尾に入っていた。
忠一が吹っ飛ばされた事で支えを失った栄治は、バランスを崩して道路にへたり込んだ。
「雪——!」 栄治が忠一を目で追おうとした時、学ランの胸倉がガッとつかまれ、そのまま塀にどんと背中を押し付けられた。
「…っ!?」 背中をしたたかに打ち付けられ、衝撃に息を呑んだのも束の間。
気が付けば、栄治は喉元に白刃の尖端を突きつけられていた。
「てててててぇ…!」 派手に転んだ忠一が身を起こした時。
目に飛び込んできたのは、藤堂に切っ先を突きつけられている栄治の姿だった。
「…んなっ!?え、栄治!」 「栄治サン!?」 「松永君!」 身構えた彩と知信が、遠巻きに藤堂を囲むが、手出しのしようがなかった。
「…動くな」 視線は知信たちを睨んだまま、藤堂が低く押し殺した声音で警告した。
栄治は、自分の生殺与奪を握ったはずの藤堂の眼光に、勝者の優越感がない事を感じ取っていた。
芹沢の指示で、平山、平間、新見は、三手に分かれて栄治たちを血眼になって探し始めた。
「ど畜生めがぁ!あンの…ガキどもめぇ!」 大いに荒れていた平山は、目の前の塀を力任せにガンと蹴飛ばした。
「いっ…っ…てぇ…っ!何処行きやがったぁーっ!?」 足に走る痛みを誤魔化すように、平山は幽士隊に出し抜かれた悔しさと敵意を発散させた。
「んー…?いねぇ。いねぇや」 平間は、手ごろな電柱の天辺にしゃがみ込み、手を目頭にかざして遠くに目を凝らしていた。
そして新見は、持ち前の身軽さで屋根伝いに飛び回りながら目指す獲物を探していた。
その脳裏に、ついさっきの芹沢とのやり取りが思い浮かぶ。
「…市街地の西側だけで、宜しいのですか?」 「あぁ。下手に探索範囲を広げりゃあ、その分、粗が出んだろう」 「それは、そうですが…。しかし、伊東らを頼って本当によろしいので…?」 「構いやしねぇさ。先生さんの方も、とっくに動き出してる頃合だろうよ。そっちはそっちに、任せときゃいいじゃねぇか」 「…御意」 芹沢は笑っていた。不敵とも自嘲とも諦めともとれる笑みを浮かべていた。
あの笑みの前に、新見は異見を引っ込めざるを得なかった。
ああなった芹沢が、もう誰の言う事も聞き入れない事は、側で長く仕えていた新見が、一番よくわかっていた。
(あの人は…詰めが甘い。以前も、それで足元をすくわれたというに…。一体、何を考えている…芹沢鴨!?) あってはならない主への疑念を振り払うように、新見はさらに高く遠くへと跳躍した。
知信は焦っていた。
心の内に押し隠した焦りは、一秒ごとに少しずつ、しかし確実に肥大化していく。
(何て事だ…!一刻も早く、この場を離れなければならなかったのに…!) 忠一と彩が、栄治一人の身を案じているこの時も、知信は幽士隊全員の安全を案じて、思考をフル回転させていた。
栄治を人質に取られたとはいえ、数の上ではこちらに利がある。
だが、三人ともまともな戦力として太刀回れるのは、せいぜいわずかな時間だろう。
仮に藤堂一人を退けて、栄治を救け出したとしても、逃げ出す余力まで使い果たしてしまう。
こうしているうちにも、回天狗党の増援が、いつ追い付いて来るともわからない。
「てめぇっ!とっとと、栄治を離しやがれっ!」 「人質を取るなんテ、卑怯でス!アンフェアです!」 忠一と彩は、藤堂に必死で吠え掛かる。
「…動くな、と言った筈だ」 当然のように人質解放をはねつけられた忠一は、カッとして思わず槍を取り出していた。
「…ノヤロォ!チョーシこいてんじゃねぇぞっ!」 「No, No! だめでス、忠一サン!」 彩はとっさに、槍を持つ忠一の右腕にガシッと組み付いた。
「だーっ!とめんな、彩!」 「ワタシたちオール・グロッキー!トランスフォームしてモ、すぐにルーズしてしまいまス!」 彩の冷静な言葉に、忠一はジタバタするのをピタリとやめた。 それでも、はらわたはグラグラと煮えくり返っている。
「ちっ…!クソが…!」 すぐにでも助け出したいのに、敵を睨みつけるしかない自分たちの不甲斐なさに忠一は舌打ちした。
栄治はといえば、手足にまとわり付いた疲労と藤堂の予想外の腕力に、身動き出来ないでいた。
闇夜の中でも白光りする刃の冷たさは、触れていないはずの皮膚にまで伝わってくるようだった。
あの鉢金を拾った日。
あの時、訳もわからないまま傀儡に襲われた時の恐怖感が一瞬フラッシュバックした。
実際はほんの一、二分の出来事だったが、いつ自分の首に刃が食い込むかという極度の緊張を強いられた栄治には三十分は過ぎたように思えた。
不意に、藤堂が切り出した。
「『憑代』を渡せ」 「…何?」 問い返した栄治に、藤堂は切っ先を喉元に押し付けた。
氷柱に貫かれそうな錯覚に、栄治は背筋が一気に寒くなった。
「『憑代』を渡せと言っている」 「バ、バーロー!んなコト、できるわけねーじゃねーかよ!」 忠一の遠吠えも虚しく、栄治は気圧されそうになる心を必死に鎮めながら、ポケットからそろそろと鉢金を取り出し、藤堂に差し出した。
藤堂の左手が、栄治の衿元から離れたのも一瞬。
素早く鉢金を奪い取ると、栄治を彩に向かってドンと突き飛ばした。
「ぅわ…っ!?」 Watch out!(危なイ…!) 道路に放り出された栄治を彩が咄嗟に受け止めた時。藤堂は既に一目散に近くの瓦屋根に飛び乗っていた。
「しまった…!」 「ちっくしょう!」 忠一と知信は、憑代を奪った敵を憎憎しげな目で睨んだ。
「栄治サン?大丈夫ですカ?」 「あ、あぁ…。何とかな」 彩に姿勢を支えられながら、栄治も屋根の上の藤堂に目を向けた。
まだ春先の冷たい夜風が、ひゅうと吹き抜ける。
藤堂は道路にたたずむ四人をじっと見据えたかと思うと、さっき奪ったばかりの鉢金を栄治に向かって投げてよこした。
新月の夜空に放物線を描いて、鉢金は今の主の足元へカランと音を立てて転がった。
一体、何が起こったのか。
突然起こした敵の不可解な行動を、四人は怪訝な顔で見ているしか出来なかった。
藤堂はくるりと背を向けると、獲物に挑みかかる猛禽類のような目で栄治をキッと見やった。
「明日の夜…子の刻に、天守閣へ一人で来い。『憑代』も一緒にだ。…忘れるな」 言い終わると、藤堂は鈍く黒光りするいらかの波間に颯爽と姿を消した。
いつもは威勢よく吠える忠一も「待ちやがれ!」とは言えなかった。 戦いたくとも戦えない状況下で、強敵が去ってくれた事に全員が胸をなでおろしていた。 しかし、傀儡を全滅させた勝利に水を差された気まずさから、誰も口に出せないだけだった。
はっと我に返った知信が、全員に呼びかけた。
「こうしている場合じゃない。みんな!すぐにここから…!」 言い終わらないうちに、思わぬ方向から一群の飛来物があった。
今さっきまで知信がいた場所に突き刺さったそれは、無数の千本だった。
千本が飛んできた方向へ、四人は恐る恐る視線を向けた。
旧市街の奥へと続く道の先。その暗がりに一つの三白眼がギョロリと光っていた。
全員に緊張が走る。
「新見…!?」 栄治が呟いた刹那、新見は一足飛びに間合いを詰めて迫り来る。
——かのように見えた、その時。
またもや思わぬ方向から、青白い光の粒が新見の頭上に大量に降り注いだ。
「む…っ!?」 新見は思わず怯んで、頭を庇おうと動きを止めた。
そこへ漆黒の夜空から舞い降りた白刃が、新見に向かって振り下ろされた。
その一撃を新見は刀を抜きざまに受け止め、合わさる刃が派手な音を立てる。
栄治たちは、息を呑んだ。
舞い降りた刃は、忍装束が斬り付けたものだったのだ。
「監察方さん…!?」 「お前ぇ…戻ってきたのかよ!?」 知信と忠一、そして栄治とそれを支える彩も驚愕した。
いの一番に現場を離れ、とっくに帰ったと思っていた忍装束が、天の佑けのばかりに舞い戻って来てくれたのだ。
お互い一歩も譲らぬ鍔迫り合いに、新見と忍装束の眼光がそれぞれ徐々に殺気を帯びていく。
忍装束は目線だけで栄治たちを振り返ると
「早よ行け」 と脱出を促した。
その声に、呆けていた知信が弾かれたように走り出す。
「みんな!こっちです!」 忠一、彩、栄治も、慌ててそれに続く。
だが、知信が真っ直ぐ向かった先は事もあろうに、さっきの場所から目と鼻の先の廃屋だった。
「はぁ!?ちょ…!どこ行くんスか!?」 「廃屋にハイド・アンド・シークしたところデ、エスケープできませン!」 「いいから、早く!」 後を追いながら、忠一と彩は疑問を挟んだ。
当然だ。少しでも遠くへ逃げなければならない時に、目の前の廃屋に隠れた所でやり過ごせる訳もない。 だが、知信はこれを一喝して退けた。
四人は、廃屋一階の広い部屋に入った。どうやら、ガレージだったスペースのようだ。
「さぁ、乗って!」 「って!?これ…!」 目を凝らした栄治が見たのは、ダークグリーンの車体を闇夜に溶け込ませる知信の愛車だった。
最初の集合場所は知信が決め、待ち合わせに来たのも知信が一番乗りだったため、他の三人は車が隠されていたとは全く気付かなかった。
その用意の良さに呆気に取られる三人を余所に、知信は手早くロックを開けて運転席に滑り込むとエンジンをかけた。
車体が身震いし、暗闇に光式メーターのグラフや数字が浮かび上がる。
「出すよ!急いでっ!」 知信に檄を飛ばされ、三人は置いてかれまいと指示に従った。
I got it!(すぐに!) 「ととと…!ちょい待ったぁ!」 まず、忠一が助手席に飛び込んだ。 次に彩が後部座席に乗り込もうとしたが、足元がおぼつかない栄治を見て
「栄治サン!Be in a rush!(急ぎまス!) 「えっ…?」 焦るあまり、彩は支えていた栄治もろともシートに倒れこんだ。
「ちょ…うわっ…!?」 後部座席のドアが閉った音を確認した途端、知信はライトを灯してアクセルを踏み込んだ。
「しっかりつかまって!」 三人の返事を聞く間もなく、ダークグリーンの車体は行く手を塞ぐ老朽化したシャッターをバリバリと強引に突き破った。
突如道路に躍り出た車に、新見の注意が一瞬逸れた。
そのわずかな隙を見て、忍装束は刀を弾くと間合いをとった。
そして、すかさず煙玉を投げ付けて、新見の視界と行動を塞いだ。
「むっ…!?」 新見は、煙に薬品が含まれていた事にすぐに気付いて息を潜めた。
煙の中から出ようにも、視界を遮断された状態では障害物がないとわかっている後方へジリジリと退がるしかなかった。
徐々に煙が晴れてきた頃。
忍装束とダークグリーンの車体の姿は既になく、遠ざかるエンジン音だけが残響するように耳に残っていた。
急発進のGに圧倒され、知信以外の三人はシートにひっくり返っていた。
忠一はガバッと起き上がり、運転する知信とバックミラーを交互に見ながら言った。
「このまんまトンズラぶっこいていーんスか、風山さん!?まだ、河童忍者が…!」 「大丈夫」 自分たちを逃がす為に、あの場に一人残った忍装束。 その身を案じた忠一の抗議を知信は静かに退けた。
すると、後部シートにいた彩が上体を起こして、忠一の意見を援護する。
「ですガ、一人残してハ…!」 「監察方さんなら、大丈夫だよ。僕らと違って、正攻法では戦わないのがスタンスなんだ。相手を煙にまく方法は、僕らよりもずっと持っているさ」 楽観ではなく、確信だった。
知信の見立てに溜飲を下げた二人は、緊張に強張らせていた顔をホッとほころばせる。
「…それもそうスっね」 「ハイ。監察サンの無事を信じまショウ」 「…ぅ…ぇ…!」 夜の町を走り抜ける薄暗い車内で、不意に呻き声がした。 その聞き覚えのある声に、三人は思わず固まった。
「ところで、月島さん…。松永君は…?」 ハンドルを握ったまま、探るように聞いた知信の問いに
「「あ…!」」 と、忠一と彩は顔を見合わせた。
呻き声がした方へ、そろそろと視線を動かしていく。 すると、そこには…
Oh, my bad!(ワタシとしたことが) 「だーっ!?栄治、しっかりしろぉー!目ぇさませー!」 車内は唐突に騒然となった。
彩の巨体に押し潰され栄治が、窒息寸前でノビていたのだ。
体をどけようと慌てて起き上がった彩が、天井にしたたたかに額をぶつける。 その尋常でない揺れに驚いて振り回した忠一の手が、運転中の知信に当ってハンドルを誤らせる。 けたたましいクラクションで前を見れば、対向車と衝突寸前の所をギリギリでかわして事無きを得た。
そうこうしている間に、栄治は息を吹き返して具合は落ち着いていった。
今日はこのまま、知信がそれぞれの自宅前まで送ってくれる事になり、四人はこれからの事を考え始めた。
「…んで?どうすんスか?あのトードーとかいうヤツの果たし状」 最初に口火を切ったのは忠一だった。
「どうやら、予想以上に油断できない相手のようだ…。僕らを一人ずつ確実に倒す作戦に変えてきたんだろうね」 「同意しまス。戦力を分散せいテ各個撃破。コレ、戦術の基本でス」 知信の分析を彩が拾う。
「じゃ、100パーセントワナってことじゃねーかよ!」 「おそらくね」 忠一の「まさか」を知信が断定する。
「どうするのですカ?例の要求を…」 彩の問いに知信は瞑目するように目を細め。しばし考え込んだ。
「…行くしかないだろうね。行かなければ、彼らがどんな手段に出るかわからないし。もし約束通り、向こうの戦力が藤堂平助一人だとしたら、むしろ僕らにとっても敵を一人ずつ倒す事が出来るチャンスかもしれない」 「なーるへそ!さっすが、風山さんっスね!」 知信が導き出した可能性に、忠一はパチンと指を鳴らした。
「デハ、一人がエネミーを引きつけテ、残りのトリオをアンブッシュしておきますカ?」 的確な彩の作戦案を意外な形で遮ったのは、栄治だった。
「…いや。俺一人で行く」 当然の如く、車内は色めき立った。
「はぁ!?バッカか、オメー!わざわざ、やられに行く気かよ!」 「そんなんじゃねーよ!」 忠一の予想を否定した栄治は、一呼吸置いて続けた。
「雪原たちは、離れた場所で待っててくれ。ただし、絶対に手を出さないで欲しいんだ」 栄治の不可解な独断に、いつもは文句一つ言わない彩が疑問をぶつける。
「ナゼですカ!?そんなワーストなアクション、リスキーすぎまス!」 「…どういうつもりだい?松永君」 知信は、フロントガラスに目を向けたまま、厳しくも静かに問いただした。
何か考える素振りを見せたものの、すぐに栄治はバックミラー越しに知信を真っ直ぐ見た。
「勝手な事言ってるのは、わかってます。けど…あいつは、俺を殺そうと思えば殺せた。俺がまだ生きてるのは、シャクだけど、あいつに生かされてるからです。だから…」 そこまで言いかけて、聞いていた忠一が結論をすくいとる。
「『カリはかえす』…ってか?」 「それを言うなら…と。その通りか」 いつもの言い間違いをしない忠一に、もはや条件反射になっていた自分の反応を栄治は自嘲した。
しかし、当の知信は尚も厳しい態度を崩さない。
「残念だけど、それは出来ない相談だね。君一人の意地の為に、僕ら全員が必要のない危険を冒す訳にはいかない」 「風山サンの言うとおりでス!栄治サン!考え直すべきでス!」 二人の最もな抗議にも、栄治はめげなかった。
ずっと手にしていた鉢金をさらに強く握り締め
「あの時…一度死んだって思えば、今更何も怖くない。だから、俺は行くよ。一人でも。行かなきゃならないような気がするんだ」 静かだが強い意志のこもった栄治の主張に、車内はしばしの沈黙に包まれた。
窓越しの夜景が、光の川のように流れていく。
「…しゃーねーなぁ」 沈黙を破ったのは、忠一の能天気な声だった。
「雪原君?」 言い様からして、栄治に賛同するつもりらしい忠一に、知信はわずかに眉をひそめた。
そんな事を気にする様子もなく、忠一はへらへらと栄治を指差して言った。
「こいつ、ヘコでも動かねぇって目ぇしてやがるんスよ?たぶん、ほっといたらマジで一人で行っちまいますって」 「それを言うなら『テコでも』だろ」 「ぅおい!せっかく、味方してやってんのに…!」 「あ、悪い」 いつものペースでじゃれ合う二人の前に、彩も知信も不思議と気勢を削がれてしまっていた。
「仕方ないですネ…」 溜息をついた彩は、どこか困ったような顔で笑った。
「…そこまで言うのなら、何か考えがあると思っておくよ。その代わり、不測の事態の時は必ず僕らを頼る事。いいね?」 栄治の言い分を許可しつつも、釘を刺す知信。
「へへっ!んじゃ、きーまりっと!感謝しろよなー。俺が味方してやったんだからよー」 シート越しに、忠一がからからと笑いながら調子良く恩を売る。
栄治は「信頼」という言葉を噛み締めながら言葉を紡ぎだしだ。
「ごめんな、みんな…。ありがとう」